アフリカ成長企業ファイルは2008年度~2009年度に実施した調査事業の成果です。
中国のアフリカでの経済的成功にとってきわめて重要なことは、国家の金融機関をうまく利用することであった。外国の資源企業や鉱業エネルギー資源に対する積極的な買収、大陸の石油資源やインフラへの大規模投資プロジェクトを下支えしているのは、いつでも即座に世界に向けて投資する用意のある、2兆米ドルを超える巨額な外貨準備金、それを運用する国営金融機関の集合体である。これらの機関は中国開発銀行(CDB)、中国商工業銀行(ICBC)、中国中信集团公司(CITIC)、中国輸出信用保険公司(CECIC)、Sinosure、および中国輸出入銀行であり、それらの機関の役員は中国の石油会社と密接に協力して、金融取引を望ましい奨励金付きの金利で取りまとめている。これらの国家主導の機関は自由に利用できる巨額な資金をもち、中国企業の海外進出に伴走し、欧米企業ならば避けられない厳密なアカウンタビリティと透明性原則に縛られることなく、低利融資を提供することができる。中国企業・国家・金融機関のあいだに成立している「黄金の三角形」が、中国の石油企業に、欧米の競合相手よりも低コストの資金を提供している。中国開発銀行は世界最大の準商業的銀行である。同行は3500億米ドルの資産を持ち、世界銀行やアジア銀行よりも大きい。中国輸出入銀行は世界で3番目に大きい輸出信用機関であり、その主たる使命は「産業、外国貿易と経済、財政、および国際関係において国家の政策を実施する」ことである。新たに創設された中国投資有限責任公司(CIC)の武器庫には、中国の中央銀行から提供された2000億米ドルがあり、現在その外国為替保有を、米ドルおよび米長期国債から資源資産へと多様化したいと考えている。中国輸銀は、海外での探鉱および資源取得のために、CNPC とその子会社であるペトロチナに、12億米ドルに相当するオープンな低金利クレジットラインを提供する予定である。エネルギー・天然資源への株式投資を専門とするCITICの子会社CITIC Resourcesもまた、いくつかのアフリカの国、とくにチャドとナイジェリアで、中国石油会社が関与している石油取引の取りまとめの際、密接に協力してきた。この種の資金的支援によって中国海洋石油総公司(CNOOC)は、2005年のUnacol 買収の際、シェブロン・テキサコの提示額より高い185億米ドルの現金付け値を入れることができた。米国の立法者のみがその取引の進行を停止させることができた。2004年に華為技術は、グローバルな拡張のための資金として、100億米ドルのクレジットラインを中国開銀から、6億米ドルを中国輸銀から取得した。アナリストは、華為技術が競争者より70%も安く入札し、またベンダーへの融資を提供することができたのは、それゆえだとみている。たとえばナイジェリアは、2004年に華為技術の機材を購入するために2億米ドルのローンを中国開銀から受け取った。当時の貸出利率は6.39%で、これは中国でのベンチマーク貸出利率をはるかに下回っており、ときにはわずか1~2%ということもあった。これらのすべてが、中国の納税者が提供したリスク投資への助成金に該当する。重要なことは、欧米企業はそのような「投資パッケージ」をもっていないため、中国の競争相手のように割引ボーナスを交渉することができず、明らかにに不利な立場にいると感じているという点である。ある欧米の鉱山会社は、数え切れないほど多くのケースにおいて、中国企業ならば資源獲得ベンチャーと連動して中国の銀行の援助を受けて行なえるような、鉱業プロジェクトを確保するためのインフラ融資を提示することができていない。中国の金融機関が貿易投資を促進するために用いている戦略は、アフリカで広範な事業基盤をもっている外国の銀行を、支店と顧客を通して買収することである。2007年10月、上場額では世界最大の銀行である中国商工業銀行(ICBC)は、南アフリカのStandard Bank Group Ltd.株の20%を54億米ドルで購入した。アフリカの18ヵ国で営業しているスタンダード銀行は、融資額においてアフリカにおけるすべての銀行をリードしており、1200億米ドル近くの資産をもっている(Caggeso, 2007)。中国は英国のバークレーズ銀行の株式を取得してこの購入を補足した。中国投資有限責任公司の2000億米ドルの資産を利用して、中国は米国のブラックストーン投資銀行の株を30億米ドル購入した。その後ブラックストーンは、CDBがバークレーズ銀行株を70億米ドル購入するのを助けたが、バークレーズ銀行はアフリカで活動する英国の主要銀行であり、ナイジェリア、南アフリカ、ザンビア、ジンバブエといった資源国において優位な地位を保持していた。この投資は、アフリカ主要国における金融界で有力な利権に中国がアクセスすることを保証し、二国間での政府契約によらない投資を促進するものである。
中国がアフリカ大陸で行なったインフラへの融資の大多数は、(いずれ国の輸出入銀行と同様に)中国製品の貿易支援のため輸出業者や輸入業者に対する信用供与を専門とする中国輸銀から、融資を受けている。これらの信用は2005年には合計200億米ドルに達しており、それが中国輸銀を世界最大の輸出信用機関のひとつにしている。さらに中国輸銀は、海外のプロジェクトに譲許的資金を提供する権限をもっている中国で唯一の金融機関である。2008年6月まで、中国輸銀はアフリカで少なくとも65億米ドルに相当する300以上のプロジェクトに融資してきた。承認されたプロジェクトの80%がインフラ開発に関係しているため、インフラは中国輸銀の中核案件になっている。中国輸銀は、「アンゴラ方式」または「インフラによる資源獲得」と呼ばれるところの、インフラ開発融資の返済が天然資源(たとえば石油)によって行なわれる取引構造を、益々頻繁に利用している。このアプローチは決して新しくもユニークでもなく、石油産業での取引では長い歴史をもつものであるが、中国はこれをより高いレベルで行っているのである。中国輸銀は、中国の国営企業や、中国製品の購入を希望する外国政府に対して有利なクレジットラインを提供することで、全世界の同業者に対抗して中国企業の生産性と競争力を高めることを長期的な目標としている“Go Global”戦略に沿って、中国企業の海外での拡大を支援している。このスキームは、融資返済への適切な財務保証を提供できない国々に対して利用され、また中国企業が天然資源の探査とインフラ開発をパッケージ化することを可能する。中国輸銀の融資条件は、そのプロジェクトの性質に従って、二国間協議で譲許性の程度が決定される。中国のサブサハラ・アフリカに対するインフラ・非インフラ双方の融資に関して、世界銀行の債務者報告システムから分かることがある。中国の融資は平均利率3.6%、据置き期間4年、返済期間12年間である。全体としてこれは、譲許的性があるとされる公式の定義、36%のグラントエレメントを満たしている。しかしながら、各国間でのこれらパラメータの差はかなり大きい。利率に関しは、下は0.25%(アンゴラのケースで)から上は6%までの範囲であり、据置き期間は2年から10年、返済期間は5年から25年、グランドエレメントは10~70%でばらついている。中国の融資は民間セクターの対アフリカ貸出と比較すれば有利だが、アフリカに対して約66%のグランドエレメントを提供しているODAほど魅力的ではない。譲許的融資の場合、中国企業がコントラクターまたは輸出業者に選定されなければならないという条件がつく。さらに、プロジェクトを実施するために必要とされる機材、材料、サービス、技術の50%以上を中国から確保しなければならない。アンゴラのケースではその数字はさらに高く、70%である。
アンゴラは、中国の経済的政治的関心がどのように絡み合っているか、石油産業部門における中国企業のアクセスを梃子入れするために輸銀融資がどのように利用されたかを示す、最良の例である。中国のアンゴラへの関心は、アンゴラの新しい東方外交政策と時期的にほぼ一致していた。アンゴラでは、欧米のパートナーとの伝統的関係を悪化させるような、いくつかの問題が浮上していた。
およそ110〜120億米ドルを海外から調達する必要があった。アンゴラはどうにもならない状態にあった。アンゴラはすでに債権者のパリクラブから110億米ドルを借り入れていた。それはアンゴラ政府にとって返済不能の金額であり、利子支払いが精一杯だった。債務救済をえるにはIMFの構造調整計画を受け入れなければならなかったが、それは、アンゴラの政府組織の抜本的改革と、石油収入の不透明な使途を明らかにするよう求めていた。IMFのプログラムが始まると、パリクラブとの交渉はアンゴラに債務救済を施す方向に動きだした。世紀が変わるころアンゴラは、アンゴラ経済と政府機関改革に着手するつもりで、IMFのスタッフ・モニタリング・プログラム(SMP)と接触した。しかしそれは、財務省や中央銀行よりも強力な、アンゴラ政府内の実質的な「主権国家」であったSonangol を解体するよう要求すると思われた。当時、これは大統領府(Futungo)が受け入れそうもないことだった。前世紀末に石油価格が1バレル当り10米ドルの低水準から上昇し始めた後、アンゴラはSMPプログラムを捨て去り、Sonangolを通して積極的に、国際金融市場から石油を担保としたローンを借り受ける方針に切り替えた。この国有石油会社はアンゴラ政府にとって実質的に最後の貸手となり、そのようなローンの債務返済スケジュールを固く守るという評判を急速に確立し、国際機関をも喜ばせた。しかしそれらのローンは非常に割高なもので、アンゴラは高リスクの貸付先として、通常の市場価格よりもはるかに低い担保評価での石油保証を使って、プレミア利子を支払っていた。ある時期には、Sonangolは将来計画されている石油生産のほとんど全部をローンに対する石油返済保証としていた。石油を担保にした借り入れ政策もまた、ブレトン・ウッズ機関からの痛烈な批判にさらされるようになった。彼らは、その政策はIMFの改革を受け入れるよりも金のかかる選択肢であり、アンゴラの経済を安定させるために必要とされる改革と、世界経済へのアンゴラの復帰を遅延させていると主張した。加えて、IMFの監視つきながら外貨とソフトローンが集まるものと期待された「ドナー会議」の約束は、ついに果たされなかった。当時アンゴラ交渉団のトップであったJosé Pedro de Morais財務相、アンゴラ中央銀行(BNA)の有能なAguinaldo Jaime総裁は「アンゴラのように豊かな天然資源にどっぷりと浸かり、大掛かりな政治改革に取り組む気のない国に、金を貸すことは不道徳である」という、いつもの反応で迎えられた。最後には、改革が行なわれないことから金を貸そうとしない外国ドナーとのあいだで手詰まり状態となり、アンゴラは、改革が行なえないのは貸付を拒否されたせいであると主張した。
天然資源の取得を渇望していた中国のアンゴラ参入は、ある意味必然である。2002年4月における内戦の終結に伴い、アンゴラは、疲弊した大衆を活気づけるために急速な社会経済開発を必要としていた。ドスサントス大統領は、彼が記憶されるために社会経済開発(経済的平和配当)を在任中に遺産として残すことを、もっとも重要な政策目標としていた。中国は豊富な現金というソリューションを提供してくれた。北京は中央銀行の金庫を現金の山で満たし、中国輸出入銀行、中国開発銀行(CDB)、中国建設銀行(CCB)、Sinosure、China International Fund (CIF)等の国営金融機関や開発系国有企業を使って、アフリカでの政治的影響力を強化しようとしていた。重要なことは、それらのローンにはなんらの政治的、あるいは「道徳的」条件がついていないことである。中国は「国家の主権事項に対する不干渉」原則を厳密に固守している。当時Aguinaldo Jaime は内輪の会話で何人かに、中国がありがたいのは、中国の銀行には直ちに資金を融通してくれるだけの十分な流動性があり、ローンとは借手の必要がなくなるまで継続すべきものだと考えてくれることだと話していた。アンゴラ政府の高官は、中国政府は、とくに透明性の問題について政治的なひもを付けずに進んで援助をオファーしてくれ、アンゴラ経済の重要部門に窓を開いてくれたため、われわれは中国を頼ったのだといっている。中国は低い金利と適切な返済スケジュールについて話し合う用意を固めていたが、それは、とくに石油産業における経済的な見返りを期待してのことであった。
2004年以降の対アンゴラ融資を時間の経過に沿ってみてみると、両国のあいだでの融資の発表と、重要なエネルギープロジェクトの取り決めとのあいだに、密接な関係があることが分かる。その関連性について、アンゴラ政府にいつどのような融資が提供されたかについての年代順の分析とともに、以下に概略を述べる。
対アンゴラ融資が通常以上に寛大な条件を与えられたことは疑いない。通常の輸銀貸し出し標準金利は、英国指標Libor 3M(3カ月)プラス1.5%である。返済は、据置き期間5年間の17年間に引き延ばされている。半年ごとの支払いが毎年3月21日と9月21日に設定されている。利子率は有利であるが、2005年のスタンダード銀行による23億5000万米ドルのローン(Liborプラス72.5%利率)と比較してみると、利子支払いは、アンゴラに対して行なわれた他のローン、たとえばLR LuminarやDeutsche Bank of Spanish Santanderと大きな差はない。インド輸出入銀行はLiborプラス1.75%のローンをオファーした。しかし、これらすべてのローンはひとつの点で異なっている。それらは、約状による石油生産割当といった実物保証ではなく国家保証、すなわち財務省からの約束手形に基づいている。今年、アンゴラはIMF との協議を再開した。その理由として、アンゴラの中国融資に対する依存が過剰になり、対外債務ポートフォリオのバランスをとるため代わりの資金ルートが必要になったためといわれている。
中国商工業銀行(ICBC)は中国最大の銀行であるが、同行が2007年に南アフリカのスタンダード銀行の株式20%を51億米ドルで購入したことは、アフリカでは大ニュースとして報じられた。2年間をかけてICBC とスタンダード銀行は、2010年までに5億米ドルを超える大規模買収をアフリカで計画中である。スタンダード銀行がもつアフリカ市場での強力なアクセスは、中国資本の後援をえて、中国による買収の加速と拡大を通じて大陸経済を変えていくだろう。スタンダード銀行の優位性はアフリカ18ヵ国における1000ヵ所の支店ネットワークにあり、DRCとアンゴラにも支店を開設する予定である。スタンダード銀行の広範なカバレッジによって、中国国家を背後にもつICBCに新しい道が開かれ、アフリカ大陸を覆う中国政府の地政的戦略を前進させている。銀行業におけるスタンダードの伝統的アプローチと、中国の国家主導のアフリカ長期ビジョンのあいだに矛盾があるのは明白だが、妥協的なビジネスモデルを作る作業が進んでいる。スタンダードのClive Taskerアフリカ事業部長が、石油、電気通信、鉱業、ベースメタル、電力事業に焦点を当てた50億米ドルの買収計画を作成中であるといわれている。対象国はDRC、ギニア、タンザニア、モザンピーク、ナイジェリアである。その第一歩は、ICBCをアフリカの主要商品市場に参入させることを意図した10億米ドルの資源ファンドであると予想されている。長期的にスタンダード銀行は、中国の戦略的資源獲得計画の前面に立つことになるだろう。ICBCとスタンダード銀行の協力リストは現在60プロジェクトに及んでおり、今後数ヵ月でかなり拡大することが予想される。ICBC の年間の利益成長率は、過去6年間の平均で37.5%に上る。